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名古屋高等裁判所 昭和36年(う)255号 判決 1961年8月15日

被告人 佐々木義彦 外一名

主文

原判決中被告人佐々木義彦に関する部分を破棄する。

同被告人を懲役参年六月に処する。

原審における未決勾留日数中三〇日を右本刑に算入する。

被告人野端喜久男の本件控訴を棄却する。

当審における未決勾留日数中四〇日を同被告人に対する本刑に算入する。

理由

被告人佐々木義彦の控訴趣意(一)について、

所論は、同被告人に対する原判示第二の(1)及び(2)の各窃盗について、同被告人としては、いずれも無断借用後、各所有者に返還する意思のもとに、一時これを持ち去つたもので、いわゆる窃取の意思はなかつた、というのであるが、被告人が、右各事実について、各保管者又は被害者の承諾を得ず、当該各物件を持出したこと、右保管者又は被害者においては、同被告人のこれらの行為を容認するものでなかつたこと、同被告人としては、その都度、当該各物件を入質処分していることは、同被告人の司法警察員に対する供述調書、吉田頌城、竹島房子の司法巡査に対する各供述調書(原判示第二の(1))深見志づゑ、吉村道男の司法警察員に対する各供述調書(原判示第二の(2))により明認できるところである。同被告人が返還の意思があつたという如きは、一片の弁解に過ぎないばかりでなく、仮りに、同被告人がいうが如く返還の意思があつたとしても、当該各保管者又は所有者の承諾を得ることなく、これを自己の所持に帰せしめた以上窃盗罪の成立することは当然である。記録を精査してみても、原判決の右各事実の認定に誤認を疑うべきかどは認められない。論旨は理由がない。

同(二)について、

所論は、原判示第一の(1)事実について、被告人佐々木は、相被告人野端喜久男及び佐藤昭と、強盗を共謀したことはなく、同被告人としては、原判示林誠一方に対する窃盗を意図しただけであり、相被告人野端及び佐藤昭が右林誠一方に於て、原判示の如き強盗を働くことは、被告人佐々木としては全然知らず、かつ又知らされず、同人らは窃盗を行つているものと信じ、林方附近に於て、その見張りをしていたに過ぎないという。

然し、原判決の引用する被告人の司法警察員及び検察官に対する各供述調書、相被告人野端喜久男の司法警察員及び検察官に対する各供述調書及び佐藤昭の司法警察員に対する供述調書及び同謄本並びに司法警察員作成の昭和三五年一一月二八日付実況見分調書によれば、被告人佐々木は、金銭に窮した結果、予て識合の原判示林誠一方に押し入つて金員を窃取しようと考え、これを相被告人野端喜久男に打ち開け、その賛成を得て、機会を窺つている中、野端が偶々名古屋駅で識り合つた佐藤昭に対し、この窃盗の計劃を明かしここに被告人佐々木、相被告人野端、佐藤昭の三人が前示林誠一方で窃盗を働らくべく、同家附近に赴き、同家家人の寝静まるのを待つている間、盗みをやるより、タタキ(強盗の意味)をやる方が手取り早い、と佐藤が言い出し、被告人佐々木、及び同野端もこの申出を諒承、賛成し、ここに、三名は林誠一方に強盗に押し入り暴行、脅迫を加えて金員を奪取することを共謀し、被告人佐々木は、林方家人に顔を知られているところから、同家附近で見張りをすることとし、被告人野端と佐藤が同家に押し入り奪取行為を分担することを相談のうえ、該計劃に基き被告人佐々木は、林方から約一〇米位離れたところに佇立して見張りをし、被告人野端、佐藤が林方家人に対し、原判示の如き脅迫を加えて原判示金員を奪取した事実を、認定できるのである。記録を精査してみても、原判決のこの事実に関する認定に誤認を疑うべきかどはなく、被告人佐々木の前記主張の如きは、単なる弁解のための弁解というべく、論旨は理由がない。

同(三)及び弁護人大場民男の控訴趣意について、

各所論は、原判示第一の(2)の事実について、被告人佐々木は右強盗の事実を、相被告人野端喜久男と共謀したことも、そして又同人らと共に原判示の強盗を働いたこともない。被告人佐々木としては、原判示佐藤秀二郎方附近まで相被告人野端及び佐藤と同行したことはあるが、佐藤秀二郎方附近で右野端らと別れ、同所から約一粁米位離れた場所で同人らの来るのを待つていた。その待つていたことが、原判示の如く強盗の見張りということは、場所的状況からしてとうてい不自然である。もつとも、被告人佐々木としても、佐藤秀二郎方附近で、相被告人野端らと別れるとき、同人らが、右佐藤方に於て強盗でもするのではないかとは思つたが、被告人佐々木としては、この犯行に加担する意思は毫もなかつたものである、という。

原判決が原判示第一の(2)事実を認定するについて引用している各証拠、特に、被告人佐々木、同野端、及び佐藤昭が原判示強盗の共謀の点について述べている同人らの司法警察員及び検察官に対する各供述調書を仔細に検討してみると、被告人佐々木、同野端、及び佐藤昭の三名は、原判示第一の(1)の強盗をした後、相携えて大津方面に逃亡し、大津駅で下車し、同市内において、佐藤昭が又ここでタタキ(前出)をやろうかと言い出し、被告人佐々木、同野端に諮つたところ、同人らは、ここでは危いから止めよう、ということになり、犯行を中止し、京都駅に赴き、京都市内を三人でうろついた後、再び佐藤昭が同市内でタタキをやろうと提案し、被告人野端は直ちにこれに賛成したが、被告人佐々木は、これに反対したものの、野端、佐藤がもう一度つき合えというので、自ら強盗をする意思まではなかつたが、野端、佐藤らの行く所迄一緒に行くことには賛成した。そして、右三名で、原判示佐藤秀二郎方附近まで行き、同家附近を物色した後、佐藤昭、野端らは、同夜右佐藤秀二郎方に押し入り強盗を働くことをきめ、一旦同所を引き揚げ京都駅に戻つた。そして、同駅待合室で時間を過し、再び、同夜十二時ごろ被告人佐々木、同野端、佐藤昭の三人は連れ立つて同駅を出て、予め物色しておいた佐藤秀二郎方に赴いた。被告人野端、佐藤が右秀二郎方に押し入り強盗を働く意思であつたことは勿論であるが、被告人佐々木としては、自ら強盗をするまでの意思はなく、野端や佐藤が強盗をするのだから、現場まで同行し、見張りでもすればよい位に考えて同人らと共に再び佐藤秀二郎方前迄赴いた。同所で、被告人野端と佐藤は、被告人佐々木を交えず、秀二郎方に押し入る相談をして、佐藤は、被告人佐々木に対し、お前は下で見張つていろ、と言い棄て、同被告人も又、「俺はタタキは不馴れだから見張にしてくれ」と佐藤昭や被告人野端に告げ、直ちに、同所を立ち去り、そこから約一粁距つた坂下の電車道で、同人らの犯行の終るのを待ち受けた。この当時においても被告人佐々木としては、佐藤昭や被告人野端と共同して佐藤秀二郎方で強盗をする意思はなかつたものであり、被告人佐々木が右の如く被告人野端や佐藤の犯行の終るのを待ち受けた場所からは、犯行の場所である佐藤方を見透せる関係になかつたこと、次に、被告人佐々木は同所で一時間位時間を過したが、野端や佐藤がいつこうに出て来ないので、不審に思い佐藤秀二郎方附近に引き返えしたところ、同家家人が強盗に入られたといつて騒いでいたので、野端や佐藤がその計画どおり強盗をしたのだということは判つたが、知らぬ顔をして、同家人に早く警察に届けなければ不可ないと告げ同家を立ち去り、同日被告人一人で大阪駅に赴き駅前派出所において帰郷旅費の斡旋方を申込み、同待合室に入つたところ、同所で再び野端、佐藤昭らと出合い、佐藤に対し、昨夜の犯行の分前をくれと要求し、結局同人から金千円を、それが同人らが佐藤秀二郎方の強盗行為により得たものであることを知りながら貰い受けたこと、以上の各事実を認定することはできるが、原判決引用の証拠により認定できる事実は、以上につきるのである。

(なお、被告人佐々木が原判示第一の(2)の事実について、原判示手段による金員奪取の行為を、被告人野端や佐藤昭と共同実行したとの事実は、原判決も又これを認定していない。)

ところで、共同正犯の成立について、かの共謀共同正犯説によれば、共謀者中の一人が、必ずしも、その共謀に係る犯罪行為の実行行為を分担遂行する必要のないことは、わが判例の既に確定したところである。然し、そこに、犯罪の実行を共謀するとは、判例の表現を藉りれば、「二人以上の者が一心同体の如く互に相倚り相援けて各自の犯意を共同的に実現し、以て特定の犯罪を実行すべき」いわゆる犯罪団体ともいうべき協同関係の成立する場合でなければならず、この場合、共謀者と目される者においては、当該共謀に係る犯罪を飽く迄自己の犯罪として、自ら実行し又は共謀者中の一員をして実行させるものでなければならない。蓋し、他人の実行行為がなお、その実行行為をしなかつた者の行為として評価されるためには、後者が前者の行為を、自己の行為として支配する関係がなければならず、そのためには、後者の主観、あるいは意思面において、前者の行為を自己の行為として意欲することを必要とするからである。そして、共謀共同正犯説を、共謀者の主観面において、このように制限して解する限り、これに対する反対説の批判にも堪え得るわけであるし、同時に又共謀に名を藉り、これを徒らに拡張して解するが如きことはやはり厳戒すべきことなのである。ところで、本件について、これをみれば、被告人佐々木としては、同野端、佐藤昭が原判示佐藤秀二郎方で強盗をすることの情を知りながら、同所まで同行はしたものの、被告人佐々木としては、自ら強盗を実行する意思のなかつたのは勿論、被告人野端、佐藤のする強盗行為を、自己の行為として意欲した事実もとうてい認められないのである。(もつとも、原判示犯行の翌日、被告人佐々木が佐藤昭から金千円を貰い受けていることは、前記のとおりであるが、これとても、必ずしも、犯罪行為に因つて得た物、その利得を、共犯者に対し、いわゆる分前として分配したものと見るべきではなく、佐々木が佐藤に対し、金員の贈与方を懇願し、同人も又佐々木に対し、これを恵み与えた関係と見るのが相当である。)そして又、原判決のいう被告人佐々木の見張行為というのも、同被告人としては、被告人野端佐藤らの犯行現場から約一粁米離れた場所で、同人らが犯行を終えて出てくるのを待ち受けていたまでのことであり、かつ、その待ち受けていた場所と犯行現場の地理的関係を考えれば、他人の犯罪行為の見張りというが如き関係の成り立ち得ないことも、既に見たとおりである。果して、然らば、原判決が、その引用の証拠により原判示第一の(2)の事実について、被告人佐々木が、被告人野端及び佐藤昭と原判示強盗を共謀し、被害者方附近で見張りをしたものと認定したことは、理由不備(それは、法律の解釈を誤つた結果に由来するものというべきである。)、又は事実を誤認(記録を精査し、又当裁判所の検証の結果によるも、前記見張りの関係については、被告人佐々木の主張を理由あるものと認めざるを得ず、又共謀関係を確認するに足りる証拠は存しない。)したものというべく、原判決中、被告人佐々木に対する部分は、原判示第一の(2)の事実について、とうてい破棄を免れない。この点の論旨はいずれも理由がある。

次に、被告人野端喜久男の弁護人相沢登喜男の控訴趣意について

所論は、原判決の同被告人に対する量刑不当を主張するものであるが、記録並びに原裁判所が取り調べた証拠に徴し認められる同被告人に対する量刑の資料となる事実、すなわち、被告人野端は、原判示の如く二回に亘り強盗を行い、その犯行の態様も覆面をして深夜他家に押し入り、家人に兇器のを突きつけ、あるいは兇器を所持するように見せかけてこれを脅迫し金員を奪取するという兇悪のものであり、極めて悪質な犯行であること、右二回の強盗に際し同被告人の行動は積極的であり、原判示第一の(2)の場合の如きは刺身庖丁を使おうとして佐藤に制止された事実すらあつたこと、なお、同被告人には再犯加重の原由となる二個の窃盗の前科の存すること等を考えれば、本件犯行後同被告人の父親において各被害者に対する弁償を了し、各被害者において同被告人の処罰を強いて希望しない事情にあることを認めるに難くないが、これらの事情を参酌してみても原判決の同被告人に対する科刑が重きに過ぎ不当なものであるとは認められない。論旨は理由がない。

よつて、被告人野端喜久男の本件控訴は理由がないので、刑訴法三九六条に則りこれを棄却することとするが、刑法二一条により当審における未決勾留日数中四〇日を同被告人に対する本刑に算入することとする。

次に、被告人佐々木義彦の本件控訴は理由があるので、刑訴法三九七条一項により原判決中、同被告人に関する部分を破棄するが、本件は、記録及び原裁判所並びに当裁判所が取り調べた証拠により当裁判所において被告事件(検察官は、当審において原判示第一のの強盗の事実について賍物収受の訴因を予備的に追加した)について、直ちに判決できるものと認められるので同法四〇〇条但し書に従い自判することとする。

被告人佐々木義彦に対する原判示第一の(2)の強盗の訴因については、既に同被告人の控訴理由に対する判断中において説明したように、同被告人が相被告人野端喜久男、佐藤昭と、昭和三五年一一月二八日佐藤秀二郎方における強盗を共謀し、又はその実行行為を分担遂行し、あるいは、右野端、佐藤らが秀二郎方において強盗を行うに際し、これが見張りを行つた事実は、本件記録及び原裁判所並びに当裁判所が取り調べたすべての証拠に徴するも、これを確証することはできないので、この公訴事実については、同被告人は無罪とすべきであるが、検察官は、前記の如く当審において、この事実について、賍物収受の訴因を予備的に追加したので、この訴因について、進んで審判することとする。

被告人佐々木義彦に対する罪となるべき事実、累犯加重の原由となる前科の事実及び証拠の標目は次のとおりである。

すなわち、原判決中同被告人に対する罪となるべき事実中、原判示第一の(2)の事実を削除し、「被告人佐々木義彦は、昭和三五年一一月二八日、大阪市国鉄大阪駅待合室において、佐藤昭から、同人らが前夜原判示第一の(2)の強盗により佐藤秀二郎方から強取してきたものであることの情を知りながら、金千円の贈与を受け、以て賍物を収受した」との事実を追加し、証拠の標目において、原判決中第一の(2)の事実に関する部分を削除し、被告人佐々木義彦の昭和三六年三月九日附司法警察員に対する供述調書、佐藤昭の同年三月八日附同上供述調書を追加し、なお、被告人両名の当公判廷における各供述とあるのを、原審公判調書中被告人両名の各供述記載と読み替えるほか、原判決中被告人佐々木義彦関係部分とすべて同一であるから、ここに、これを引用する。

(法令の適用)

被告人の判示所為中第一の(1)の点は、刑法二三六条一項、六〇条に、同の点は、同(2)法二五六条一項に、同第二の各所為は同法二三五条に各該当するところ、被告人には前示の前科があるので、同法五六条、五七条に則りそれぞれ再犯の加重をし(判示第一の(1)の強盗罪については、同法一四条の制限に従う)、以上は、同法四五条前段の併合罪であるから、同法四七条本文、一〇条に従い、同法一四条の制限内で最も重い判示第一の(1)の強盗罪の刑に法定の加重をしなお、同被告人については、犯罪の情状憫諒すべきものがあるので、同法六六条、六八条三号により酌量減軽した刑期範囲内で、被告人を懲役三年六月に処し、なお、同法二一条により原審における未決勾留日数中三〇日を、右本刑に算入し、訴訟費用については、刑訴法一八一条但し書に従い被告人をして負担させないこととする。

よつて、主文のとおり判決した。

(裁判官 影山正雄 谷口正孝 中谷直久)

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